映画『襲名』
日本映画として初 — 『襲名』がヴェネチアで最優秀作品賞
2026年9月18日(金) · 5分で読めます
現地時間2026年9月11日、第83回ヴェネチア国際映画祭に出品された映画『襲名』が、同映画祭の公式独立賞「Cinema & Arts Award」最優秀作品賞を受賞した。この賞の最優秀作品賞を日本映画が受けるのは初めて。映画と演劇・音楽・舞台芸術の融合を評価する賞であり、歌舞伎という舞台芸術を映画として世界に差し出した作品が、まさにその名の賞を受けたことになる。
KEY FACTS
- 映画『襲名』(国際題 SHUMEI)が、第83回ヴェネチア国際映画祭の公式独立賞「Cinema & Arts Award」最優秀作品賞を受賞した。現地時間2026年9月11日(金)。
- この賞の最優秀作品賞受賞は、日本映画として初めてとなる。
- 『襲名』は同映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に正式出品された作品である。監督は三池崇史、配給はK2 Pictures。
- 「Cinema & Arts Award」は、演劇・映画監督のアレッシオ・ナルディンが考案した、ヴェネチア国際映画祭の公式に付随する賞。映画と音楽、演劇、舞台芸術など、異なる芸術表現の融合を評価する。
- 過去の受賞作には『サントメール ある被告』(アリス・ディオプ監督/その年の銀獅子賞も受賞)、『Riefenstahl』(アンドレス・ファイエル監督)、『Making of』(セドリック・カーン監督)がある。
- 日本での公開は2026年9月25日。
何が起きたか
現地時間2026年9月11日(金)、第83回ヴェネチア国際映画祭のアウト・オブ・コンペティション部門に正式出品されていた映画『襲名』が、同映画祭の公式独立賞「Cinema & Arts Award」の最優秀作品賞を受賞した。配給のK2 Picturesが同日発表している。
この賞の最優秀作品賞を日本映画が受けるのは初めてである。『襲名』は、十一代目市川海老蔵が十三代目市川團十郎白猿を、息子の勸玄が八代目市川新之助を襲名した、あの一連の襲名披露を正面から記録したドキュメンタリーである。歌舞伎を主題にした日本のドキュメンタリーが、世界最古の国際映画祭の場で賞を受けた。
「Cinema & Arts Award」とはどんな賞か
金獅子賞・銀獅子賞といった映画祭本体の賞とは別に、ヴェネチアには公式に付随するいくつかの賞がある。「Cinema & Arts Award」はそのひとつで、演劇および映画監督のアレッシオ・ナルディンが考案した。評価の軸は、映画と音楽、演劇、舞台芸術など、異なる芸術表現の融合である。
過去の受賞作には、その年の銀獅子賞も受けた『サントメール ある被告』(アリス・ディオプ監督)、『Riefenstahl』(アンドレス・ファイエル監督)、『Making of』(セドリック・カーン監督)が並ぶ。国際的に評価される作品が選ばれてきた賞である。
賞の性格を考えると、この一致は偶然ではない。歌舞伎という日本固有の舞台芸術を、映画という形で世界に提示した作品が、異なる芸術表現の融合を評価する賞を受けた。まさに “Cinema & Arts” の賞を獲った、という言い方が発表文にもある。
授賞理由に書かれていたこと
公表された授賞理由は、作品を二つの層から読んでいる。一方には市川家の日常、公の場への出演、家族の私生活の時間があり、もう一方には、いまも日本社会のなかに息づき、更新され続ける演劇的儀式を捉えた世界がある。三池監督はその二つを、洗練された構図と長回しによって往復させている——そう書かれている。
中心に置かれているのは、襲名の儀式そのものである。新たな團十郎の誕生が告げられる場面を軸に、一人の人間としての存在、舞台上の人物としての存在、そしてその社会的な役割——この三つの関係が注意深く分析されている、と授賞理由は述べる。そこから浮かび上がるものとして挙げられているのは、技芸を受け継ぐことの価値、伝統と革新のせめぎ合い、そして父から子へ受け継がれる継承についての考察である。
終盤についてはこう書かれている。舞台上の演技によって生命を与えられる「総合芸術」としての歌舞伎の魅力が、圧倒的な力をもって立ち現れる。極端なまでに様式化された発声、身振りの規範、顔や眼差しを変貌させる化粧の鮮烈な表現主義、そして俳優と観客との直接的な関係——その美しさは、まさに一枚の絵画のようだ、と。
歌舞伎を初めて見る人が書いた文章ではない、と感じる部分がある。様式化された発声を「極端なまで」と書きつつ欠点として扱っていないこと、化粧を装飾ではなく表現主義として読んでいること、そして俳優と観客の直接的な関係に触れていること——いずれも、歌舞伎を成り立たせている条件そのものである。
三池崇史監督のコメント
受賞に際して、三池崇史監督から次のコメントが発表された。「快挙。團十郎の快挙です。映画を通じて古典歌舞伎の美しさ、そして『襲名』の厳しさを世界に向けて発信できて幸せです。ありがとう、ヴェネツィア国際映画祭。」
短いコメントだが、主語が自分ではないところに目が留まる。監督賞ではなく作品賞である以上、受け取ったのは作品であり、その作品が記録したのは一人の俳優が名を継ぐという出来事だった。「厳しさ」という言葉が「美しさ」と並べて置かれていることも、この映画が何を撮ったのかを言い当てている。
訳さずに運んだものが、返ってきた(編集部の見方)
ここからは編集部の解釈である。この映画の国際題は SHUMEI であって、Succession でも Inheritance でもない。名を継ぐという営みを、意味の近い英単語に置き換えずに、そのまま音で持っていった。その賭けに対する最初の返事が、異なる芸術表現の融合を評価する賞だった——そう読むことはできる。
ただし、受賞そのものを歌舞伎の価値の証明のように扱うことはしたくない。歌舞伎は400年のあいだ、賞に関わりなく続いてきた。授賞理由が良い文章なのは、歌舞伎を褒めたからではなく、歌舞伎を見て何が起きているかを書こうとしたからである。読む値打ちがあるのはそこだ。
前の記事の終わりに、この二日間が何をもたらしたのかはまだ分からない、と書いた。受賞の報せを受けても、その見方は変えていない。大事なのは、ヴェネチアで白塗りの顔を見た人が、そのあと何を思ったかである。賞はその手がかりの一つにすぎない——ただし、はっきりと目に見える手がかりではある。
日本での公開は9月25日
映画『襲名』は2026年9月25日に日本で公開される。ヴェネチアの観客と審査が先に受け取ったものを、今度は国内で確かめることになる。公開初日の9月25日には東京・丸の内ピカデリー、翌26日には大阪・なんばパークスシネマと名古屋・ミッドランドスクエアシネマで舞台挨拶が予定されている。上映館・上映時間、舞台挨拶の詳細は公式の案内をご確認ください。
関連用語・演目
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2026年9月4日(金) – 9月5日(土)
映画『襲名』ヴェネチア国際映画祭 上映・受賞
イタリア・ヴェネチア
映画『襲名』(国際題 SHUMEI)が第83回ヴェネチア国際映画祭で上映され、現地時間9月11日、同映画祭の公式独立賞「Cinema & Arts Award」最優秀作品賞を受賞しました。この賞の最優秀作品賞を日本映画が受けるのは初めてです。團十郎は歌舞伎の扮装のままレッドカーペットに登場——歌舞伎の衣裳で赤い絨毯を歩くのは史上初の試みと報じられています。記者撮影会にも扮装で立ち、会場前の大型スクリーンにもその姿が映りました。歌舞伎の「襲名」という営みが、世界の観客の前に開かれた——歌舞伎を世界共通言語へ運ぶ、大きな一歩です。
2026年9月25日(金) – 9月26日(土)
映画『襲名』舞台挨拶
東京・大阪・名古屋
映画『襲名』の公開初日と翌日に、東京・大阪・名古屋の3都市で舞台挨拶が行われます。回によって、本編上映のあとに舞台挨拶がある回と、舞台挨拶のあとに本編を観る回があります。
- 執筆
- KABUKI Universe編集部
- 事実確認
- KABUKI Universe編集部
- 公開日
- 2026年9月18日(金)
- 最終更新日
- 2026年9月18日(金)
- 情報確認日
- 2026年9月18日(金)
出典・参照
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