HOUSE ARTS — IE NO GEI

歌舞伎の家の芸

「家の芸」とは、歌舞伎俳優の家系に得意芸として伝わる演目のことです。天保3年(1832)に七代目市川團十郎が制定した「歌舞伎十八番」が最初とされ、明治以降、九代目團十郎の「新歌舞伎十八番」、五代目尾上菊五郎の「新古演劇十種」をはじめ、人気俳優の得意芸を集めたものが十種ほどあります(歌舞伎事典)。ただし、名称も、定めた人と年も、中身の性質も、家ごとに違います。荒事の集成もあれば、一代の創作舞踊を集めたものも、当り役を集めたものもあり、「歌舞伎十八番と同じ制度がすべての家にある」わけではありません。

用語集「家の芸(お家芸)」を読む

01KABUKI JŪHACHIBAN

歌舞伎十八番

選定された演目群成田屋(市川團十郎家)かぶきじゅうはちばん
制定
七代目市川團十郎が天保3年(1832)に制定。初代・二代目・四代目の團十郎が初演した、主に荒事の役や芸で構成される。天保11年(1840)に『勧進帳』を「歌舞伎十八番の内」と銘打って初演したことで知られ、「十八番(おはこ)」が得意芸を指す語になった由来ともされる。

演目 — 18

  1. 01『不破』ふわ
  2. 02『鳴神』なるかみ
  3. 03『暫』しばらく
  4. 04『不動』ふどう
  5. 05『嫐』うわなり
  6. 06『象引』ぞうひき
  7. 07『勧進帳』かんじんちょう
  8. 08『助六』すけろく
  9. 09『外郎売』ういろううり
  10. 10『押戻』おしもどし
  11. 11『矢の根』やのね
  12. 12『景清』かげきよ
  13. 13『関羽』かんう
  14. 14『七つ面』ななつめん
  15. 15『毛抜』けぬき
  16. 16『解脱』げだつ
  17. 17『蛇柳』じゃやなぎ
  18. 18『鎌髭』かまひげ
02SHIN KABUKI JŪHACHIBAN

新歌舞伎十八番

選定された演目群成田屋(市川團十郎家)しんかぶきじゅうはちばん
制定
七代目市川團十郎が「歌舞伎十八番」に続く構想を立てて『虎の巻』『蓮生物語』の二作を制定し、九代目團十郎がその志を受け継いで完結させた。多くが能に取材した舞踊劇と、近代の歴史劇(活歴)で構成される。この時代には「十八番」を得意芸の意味に解しており、十八演目ではない。
歌舞伎演目案内は三十二演目を挙げ、「四十演目という説もあり」と記す。成田屋公式も演目数に幅を持たせている。

演目 — 32

  1. 01『虎の巻』
  2. 02『蓮生物語』れんしょうものがたり
  3. 03『地震加藤』
  4. 04『真田張抜筒』さなだのはりぬきづつ
  5. 05『釣狐』
  6. 06『仲光』なかみつ
  7. 07『高時』
  8. 08『船弁慶』
  9. 09『山伏摂待』やまぶしせったい
  10. 10『高野物狂』こうやものぐるい
  11. 11『仲国』
  12. 12『素襖落』すおうおとし
  13. 13『女楠』おんなくすのき
  14. 14『鏡獅子』
  15. 15『腰越状』こしごえじょう
  16. 16『酒井の太鼓』
  17. 17『敷皮問答』しきがわもんどう
  18. 18『吉備大臣』きびだいじん
  19. 19『重盛諫言』しげもりかんげん
  20. 20『荏柄問答』えがらもんどう
  21. 21『静法楽舞』しずかほうらくまい
  22. 22『伊勢三郎』
  23. 23『紅葉狩』
  24. 24『凧の為朝』たこのためとも
  25. 25『文覚勧進帳』もんがくかんじんちょう
  26. 26『左小刀』
  27. 27『新七つ面』
  28. 28『二人袴』ににんばかま
  29. 29『向井将監』むかいしょうげん
  30. 30『吹取妻』ふきとりづま
  31. 31『時平の七笑』しへいのななわらい
  32. 32『大森彦七』
03SHINKO ENGEKI JISSHU

新古演劇十種

選定された演目群音羽屋(尾上菊五郎家)しんこえんげきじっしゅ
制定
五代目尾上菊五郎が制定した尾上菊五郎家の家の芸。代々の得意芸というより、五代目が創作初演した妖怪変化の舞踊劇で構成され、最後に六代目菊五郎が加えた『身替座禅』だけが異なる主題をもつ(歌舞伎演目案内)。歌舞伎事典は「代々の得意な役を集めた」と記す。

演目 — 10

  1. 01『土蜘』つちぐも
  2. 02『一つ家』
  3. 03『羅漢』らかん
  4. 04『刑部姫』おさかべひめ
  5. 05『古寺の猫』ふるでらのねこ
  6. 06『茨木』いばらき
  7. 07『戻橋』もどりばし
  8. 08『菊慈童』きくじどう
  9. 09『羽衣』はごろも
  10. 10『身替座禅』みがわりざぜん
04KATAOKA JŪNISHŪ

片岡十二集

選定された演目群松嶋屋(片岡仁左衛門家)かたおかじゅうにしゅう
制定
十一代目片岡仁左衛門が明治30年代頃に自身の創意を加えて演じた演目で、当初は「新古演劇十二集」と称した。『近頃河原の達引』は今日でもしばしば上演されるが、『吃の又平』『一条大蔵卿』は現行の演出とは大きく異なる(歌舞伎演目案内)。

演目 — 12

  1. 01『馬切り』
  2. 02『石田局』
  3. 03『赤垣源蔵』
  4. 04『菅公』
  5. 05『清水清玄』
  6. 06『吃の又平』
  7. 07『一条大蔵卿』
  8. 08『桜鍔恨鮫鞘〜鰻谷』さくらつばうらみのさめざや
  9. 09『近頃河原の達引』
  10. 10『紙子仕立両面鑑〜大文字屋』かみこじたてりょうめんかがみ
  11. 11『木村長門守〜血判取』
  12. 12『和気清麿』わけのきよまろ
05YODOGIMI-SHŪ

淀君集

選定された演目群成駒屋(中村歌右衛門家)よどぎみしゅう
制定
五代目中村歌右衛門の家の芸。五代目が坪内逍遥の『桐一葉』『沓手鳥孤城落月』で淀君を演じて絶賛を浴び、「淀君役者」の名を強く印象づけたことによる(歌舞伎演目案内)。一人の役者が当たった一つの役を軸に据えた点で、荒事の集成とも創作舞踊の集成とも性質が異なる。
歌舞伎演目案内は制定の年を記していない。

演目 — 6

  1. 01『桐一葉』きりひとは
  2. 02『沓手鳥孤城落月』ほととぎすこじょうのらくげつ
  3. 03『淀君』
  4. 04『醍醐の春』だいごのはる
  5. 05『大坂城』
  6. 06『淀君小田原陣』
06KAE-SHŪ

可江集

選定された演目群橘屋(市村羽左衛門家)かえしゅう
制定
「可江」は十五代目市村羽左衛門(1874-1945)の俳名。歌舞伎演目案内は「家の芸というよりは、いかにも羽左衛門の当り役を並べた、といった趣き」と記し、美しく華のある二枚目役者として人気を博した十五代目が得意とした、白塗りの立役・二枚目・若衆の役を挙げている。
この集だけは演目ではなく **演目と役の組み合わせ** で伝わる。歌舞伎演目案内は時代物四役、世話物・時代世話八役を挙げ、制定の年は記していない。

演目 — 12

  1. 01『近江源氏先陣館』おうみげんじせんじんやかた
  2. 02『石切梶原』いしきりかじわら
  3. 03『源平布引滝』げんぺいぬのびきのたき
  4. 04『勧進帳』かんじんちょう
  5. 05『曽我綉侠御所染〜御所五郎蔵』そがもようたてしのごしょぞめ
  6. 06『義経千本桜〜すし屋』よしつねせんぼんざくら
  7. 07『江戸育お祭佐七』えどそだちおまつりさしち
  8. 08『助六由縁江戸桜』すけろくゆかりのえどざくら
  9. 09『仮名手本忠臣蔵』かなでほんちゅうしんぐら
  10. 10『雪暮夜入谷畦道』ゆきのゆうべいりやのあぜみち
  11. 11『与話情浮名横櫛』よわなさけうきなのよこぐし
  12. 12『其小唄夢廓』そのこうたゆめもよしわら
07KYŌKA GIKYOKU JISSHU

杏花戯曲十種

選定された演目群高島屋(市川左團次家)きょうかぎきょくじっしゅ
制定
「杏花」は二代目市川左團次の俳名で、以前は「松莚(しょうえん)」といったため「松莚戯曲十種」とも表記される(歌舞伎演目案内)。岡本綺堂・岡鬼太郎・松居松翁ら同時代の作家が書いた新作で構成される点に、この集の性質がある。古典の型の集成ではなく、近代の戯曲を家の芸としたものである。
「十種」と呼ばれながら、歌舞伎演目案内が挙げるのは八演目。制定の年は記されていない。

演目 — 8

  1. 01『修禅寺物語』しゅぜんじものがたり
  2. 02『佐々木高綱』ささきたかつな
  3. 03『鳥辺山心中』とりべやましんじゅう
  4. 04『番町皿屋敷』ばんちょうさらやしき
  5. 05『尾上伊太八』おのえいだはち
  6. 06『新宿夜話』しんじゅくやわ
  7. 07『今様薩摩歌』いまようさつまうた
  8. 08『文覚』もんがく
08GANJIRŌ JŪNIKYOKU

玩辞楼十二曲

選定された演目群成駒家(中村鴈治郎家)がんじろうじゅうにきょく
制定
初代中村鴈治郎の当り役を選んだもので、制定時期は大正10年(1921)頃。「玩辞楼」は鴈治郎をもじった名である(歌舞伎演目案内)。『河庄』『封印切』『廓文章』など上方の和事を中心に構成される。
歌舞伎演目案内は「当り役といっても他の俳優が演じているものは概ね除外するというのが、どの家の芸でも共通」と記す。

演目 — 12

  1. 01『河庄』かわしょう
  2. 02『時雨の炬燵』しぐれのこたつ
  3. 03『封印切』ふういんきり
  4. 04『恋の湖』
  5. 05『敵討襤褸錦』かたきうちつづれのにしき
  6. 06『あかね染』
  7. 07『碁盤太平記』ごばんたいへいき
  8. 08『土屋主税』つちやちから
  9. 09『椀久末松山』わんきゅうすえのまつやま
  10. 10『藤十郎の恋』
  11. 11『廓文章』くるわぶんしょう
  12. 12『引窓』ひきまど
09KŌGA JISSHU

高賀十種

選定された演目群紀伊国屋(澤村宗十郎家)こうがじっしゅ
制定
「高賀」は七代目澤村宗十郎の俳名。制定時期は1947(昭和22)年頃で、歌舞伎演目案内は「江戸の和事を得意とした五代目以来の味わいが生きる演目」と記す。荒事の集成ではなく、江戸の和事の流れを受けた演目群である点に性質がある。
「十種」と呼ばれながら、歌舞伎演目案内が挙げるのは九演目。

演目 — 9

  1. 01『苅萱道心』かるかやどうしん
  2. 02『伊勢音頭』いせおんど
  3. 03『神霊矢口渡』しんれいやぐちのわたし
  4. 04『鈴木主水』すずきもんど
  5. 05『鶯塚』うぐいすづか
  6. 06『八重桐廓話』やえぎりくるわばなし
  7. 07『忠節女夫松』ちゅうせつめおとまつ
  8. 08『蘭蝶』らんちょう
  9. 09『紀国文左大尽舞』きのくにぶんざだいじんまい
10EN'Ō JISSHU

猿翁十種

選定された演目群澤瀉屋(市川猿之助家)えんおうじっしゅ
制定
初代市川猿翁(二代目猿之助)が創作あるいは復活した舞踊と舞踊劇を、一周忌にあたる昭和39年(1964)に孫の三代目猿之助が家の芸として制定したもの(歌舞伎演目案内)。同じ家の「澤瀉十種」は、その十三回忌にあたる1975年に制定された別の集である。

演目 — 10

  1. 01『悪太郎』あくたろう
  2. 02『黒塚』くろづか
  3. 03『高野物狂』こうやものぐるい
  4. 04『小鍛冶』こかじ
  5. 05『独楽』こま
  6. 06『二人三番叟』ににんさんばそう
  7. 07『蚤取男』のみとりおとこ
  8. 08『花見奴』はなみやっこ
  9. 09『酔奴』よいやっこ
  10. 10『吉野山』よしのやま
11OMODAKA JISSHU

澤瀉十種

選定された演目群澤瀉屋(市川猿之助家)おもだかじっしゅ
制定
初代市川猿翁(二代目猿之助)の創作あるいは新演出による舞踊を、1975(昭和50)年の十三回忌に因んで三代目猿之助が制定したもの(歌舞伎演目案内)。同資料は、これとは別に「猿翁十種」があると記す。荒事の集成ではなく、一代の創作舞踊の集成である点で、歌舞伎十八番とは性質が異なる。

演目 — 10

  1. 01『浮世風呂』
  2. 02『武悪』ぶあく
  3. 03『釣狐』
  4. 04『夕顔棚』
  5. 05『三人片輪』
  6. 06『連獅子』
  7. 07『檜垣』
  8. 08『二人知盛』
  9. 09『すみだ川』
  10. 10『猪八戒』ちょはっかい
12SHŪZAN JISSHU

秀山十種

選定された演目群播磨屋(中村吉右衛門家)しゅうざんじっしゅ
制定
「秀山」は初代中村吉右衛門の俳名。初代吉右衛門の得意芸を集めた家の芸で、「清正役者」といわれた初代ならではの、加藤清正に因む演目を多く含む(歌舞伎演目案内)。
「十種」と呼ばれながらも、制定されているのは六演目にとどまる(歌舞伎演目案内)。

演目 — 6

  1. 01『二条城の清正』
  2. 02『蔚山城の清正』うるさんじょうのきよまさ
  3. 03『熊本城の清正』
  4. 04『弥作の鎌腹』やさくのかまばら
  5. 05『清正誠忠録』きよまさせいちゅうろく
  6. 06『松浦の太鼓』

定められた演目群の無い家について

高麗屋(松本幸四郎家)・中村屋(中村勘三郎家)・萬屋(中村時蔵家)などは、『勧進帳』の弁慶や『伽羅先代萩』の仁木弾正のように当り役として伝わる芸をもちますが、歌舞伎事典・歌舞伎演目案内に「定められた演目群」の記載はありません。ここには、資料が家の芸として制定を記すものだけを載せています。制定された演目群を持たないことは、その家の芸が浅いということではありません。

高麗屋中村屋萬屋

執筆
KABUKI Universe編集部
公開日
2026年9月12日(土)
最終更新日
2026年9月12日(土)
編集部執筆