Q&A

制作・稽古・興行

新作以外の歌舞伎で、主演俳優が演出を兼ねることが多いのはなぜですか?

ANSWER答え

古典では「型」が演出を内包しており、その型を最も深く受け継ぐのが主演俳優だからです。座頭(ざがしら)が一座を束ねる伝統も背景にあります。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 西洋演劇の「演出家」が生まれるより前から、歌舞伎は上演を続けてきた。
  • 動き・音楽・道具立てはすべて型として蓄積されており、型そのものが演出にあたる。
  • その型を最も深く継いでいるのが主演俳優なので、座を導くのが自然な流れになる。
  • 新作や現代の企画では、外部の演出家が入ることも珍しくない。
図で見る

図で見る

読み合わせ台本を声に出して確かめる立稽古動きと位置を合わせる附立(つけだて)囃子・ツケを入れて合わせる総ざらい通して確かめる初日幕が開く
稽古が数日で足りるのは、俳優も囃子方も裏方も、その演目の「型」を共有の言語として既に持っているから。稽古はゼロから作る場ではなく、互いの型と間を今回の座組に合わせて調律する場です。

「型」をくわしく

くわしく

現代の演劇では、演出家が作品全体の解釈を決め、俳優の動きや舞台美術を統括する。この役割が確立したのは、演劇史のなかでは比較的新しい。歌舞伎は、それ以前から数百年にわたって上演を続けてきた芸能であり、別のやり方で同じ問題を解いてきた。その解が「型」である。

型とは、単なる決めポーズのことではない。どこで立ち、どう歩き、どの台詞をどの音に乗せ、どの道具をいつ出すか——上演に必要な判断の膨大な集積が、代々の俳優の身体を通して受け渡されてきたものである。つまり古典の演目には、すでに演出が織り込まれている。上演とは、その型を今回の座組で立ち上げ直す作業に近い。

そうであれば、その型を最も深く受け継いでいる人が座を導くのが自然になる。主演俳優が事実上の演出を兼ねるのは、権限の問題というより、知識の所在の問題である。加えて、江戸以来の座の作り方——座頭が芸の面でも興行の面でも一座を束ねてきた——という伝統も背景にあるとされる。ただしこれは古典の話で、新作歌舞伎や現代の演出家を迎える企画では、外部から演出が入ることも珍しくない。

この回答に出てきた言葉

演出
作品をどう舞台に立ち上げるかの全体設計。古典歌舞伎では型がその役目を担っている。
道具立て
その場面にどの大道具(おおどうぐ)小道具(こどうぐ)を置くかという構成。演目ごとにほぼ決まっている。
SOURCES

出典・記載の方針

本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)