Q&A

市川宗家・成田屋

『助六』や『勧進帳』は成田屋の家の芸なのに、なぜ他の歌舞伎俳優も演じられるのですか?

ANSWER答え

家の芸は「独占」ではなく「本家」の関係だからです。他家が勤める際は宗家(そうけ)に仁義を通し、外題や演出を変えて上演する慣行があるとされます。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 「家の芸」は上演を独占する権利ではなく、「この芸の本家はここだ」という旗印。
  • 他家が勤めるときは、宗家(そうけ)に断りを入れる慣行があるとされる。
  • 助六(すけろくゆかりのえどざくら)』では外題を変え、音楽の編成も変えて上演される。市川家の外題は『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』。
  • 広く演じられることは芸の広がりであり、同時に本家の舞台の格別さを際立たせる。
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歌舞伎十八番

  • 不破
  • 鳴神
  • 不動
  • 象引
  • 勧進帳
  • 助六
  • 外郎売
  • 押戻
  • 矢の根
  • 関羽
  • 景清
  • 七つ面
  • 毛抜
  • 解脱
  • 蛇柳
  • 鎌髭

今日ごく普通に上演される上演の機会が限られる

七代目市川團十郎が天保年間に選定したとされる十八の演目。選定の時点で既に上演の絶えていたものも含まれており、以後の復活上演で少しずつ舞台に戻されてきました。完成品の棚ではなく、掘り起こしが続く鉱脈です。上演の多寡は時期によっても変わります。

「十八番」をくわしく

くわしく

「家の芸」という言葉から、著作権のような独占を思い浮かべる人は多い。実際にはそうではない。歌舞伎十八番(じゅうはちばん(おはこ))は七代目市川團十郎(いちかわ だんじゅうろう)が市川家ゆかりの演目を選び定めたものだが、これは「市川家以外は上演してはならない」という宣言ではなく、「この芸の本家は市川宗家(いちかわそうけ)である」という旗印だと理解されている。だから他家の俳優も『助六(すけろくゆかりのえどざくら)』や『勧進帳(かんじんちょう)』を勤めるし、それは背信ではない。

ただし、まったく同じようには上演しない。他家が『助六』を勤める場合、市川家の外題『助六由縁江戸桜(すけろくゆかりのえどざくら)』とは別の外題を用い、音楽の編成も変えるという慣行が伝えられている。市川宗家が助六を勤めるときは、江戸の座敷音楽である河東節(かとうぶし)の連中が出語りで出端を支えるのが習わしとされる。他家の上演では、この音曲を別の種目に替えて演じられる。外題と音を変えることが、そのまま本家への敬意の表明になっているわけである。上演にあたって宗家に断りを入れる、という仁義の作法も伝えられている。

この仕組みは、よく考えられていると思う。芸が広く演じられれば、その演目を知る人が増え、芸そのものが生き延びる。一方で、外題も音も違うことによって、「本家の舞台で観る『助六』」がどういうものかが、かえってはっきりする。独占ではなく求心——名跡(みょうせき)と家の芸の関係は、そういう形で保たれてきたとされる。

この回答に出てきた言葉

外題
演目の正式な題名。同じ内容でも家によって外題が違うことがある。
河東節
江戸で生まれた語り物の音曲。市川家の『助六(すけろくゆかりのえどざくら)』の出端で用いられるのが習いとされる。
仁義を通す
事を起こす前に、筋の通る相手へ断りを入れること。歌舞伎の家同士の作法として使われる。
SOURCES

出典・記載の方針

本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)