Q&A
市川宗家・成田屋
市川宗家の「荒事」には、どのような特徴がありますか。衣裳の重さも特徴の一つですか?
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荒事(あらごと)は、初代市川團十郎が延宝元年(1673)に始め、元禄期の江戸で大成させたとされる様式である。「荒々しい事」の意で、人間の尺度を超えた力を舞台に立ち上げることを目指す。上方で洗練された和事——恋の情を細やかに描く芸——と対になる存在で、江戸の気風を代表する芸系と位置づけられてきた。
見た目の特徴から挙げると、まず隈取である。顔の筋肉や血管の流れを誇張してなぞる化粧で、荒事では紅の筋隈が使われる。紅は正義と力を表す色とされる。次に鬢(びん)——鬢を左右に大きく張り出させた車鬢が、頭部の輪郭そのものを人間離れさせる。そして衣裳。『暫』の素襖(すおう)は、常人には着られないほど大きく仕立てられ、三升の紋を大きく染め抜く。
質問にある「衣裳の重さ」は、まさに特徴の一つである。ただし「重いのに動く」のではなく、「重さを見せながら動く」ことに意味がある。大きく張り出した拵えを身につけたまま、腰を据えて、ゆっくりと大きく身体を運び、見得で静止する。この一連が、そのまま力の証明になっている。六方で花道を引くときの大きな足取りも同じで、身体の大きさと重さを誇示する動きが、そのまま様式の中身になっている。
もう一つ、荒事には信仰の色がある。主人公はしばしば童子のような無垢さを持ちながら、神仏の力を宿して悪を退ける。成田山新勝寺の不動明王への信仰が市川家と結びついてきたことも、この性格と無関係ではないとされる。単なる強さの誇示ではなく、悪を祓う力への高揚——荒事が三百年以上にわたって演じ続けられてきた理由は、そのあたりにあると考えられている。
この回答に出てきた言葉
- 車鬢
- 鬢を車輪の輻のように左右へ大きく張り出させた鬘。荒事の役に用いられる。
- 素襖
- 武家の装束に由来する上着。『暫』では極端に大きく仕立てられる。
この答えに出てくる言葉
- 荒事aragoto初代市川團十郎が創始したとされる勇壮な演技様式。隈取や巨大な衣裳、大きな見得によって、人間を超えた力と正義を表現する。
- 隈取kumadori役柄の内面を色と線で顔に描き出す歌舞伎独特の化粧法。紅は正義や勇気を、藍は敵役や超自然の力を表すとされる。
- 六方roppō手足を大きく振り、力強く踏みしめて進む様式的な歩みの演技。『勧進帳』の弁慶が花道を引っ込む飛び六方が名高い。
- 市川宗家Ichikawa Sōke成田屋・市川團十郎家を指す呼称。初代が創始したとされる荒事、七代目が体系化した歌舞伎十八番、團十郎の名跡を受け継いできた本家を意味する。
- 暫Shibaraku権力を握る公家・清原武衡は、意に従わない善良な人々を捕らえ、今まさに首を刎ねようとしている。
- 助六由縁江戸桜Sukeroku Yukari no Edo Zakura江戸・吉原。粋を極めた俠客・助六は、廓一番の花魁・揚巻の恋人であり、連日喧嘩に明け暮れている。
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出典・記載の方針
本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。
- 執筆
- D-13編集部
- 公開日
- 2026年8月25日(火)
- 最終更新日
- 2026年8月25日(火)