Q&A

演技・舞台表現

お囃子の中に、指揮者の役割を担う人はいますか?

ANSWER答え

指揮棒を持つ指揮者はいませんが、長唄(ながうた)では立唄・立三味線(しゃみせん)が、囃子(はやし)では主導の奏者が合図と呼吸で全体を束ねるとされます。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 指揮棒を持って全体にテンポを与える指揮者は存在しない。
  • 長唄(ながうた)では立唄と立三味線(しゃみせん)が、義太夫(ぎだゆう)では太夫と三味線(しゃみせん)が、互いの息で全体を導く。
  • 掛け声(ヤアー、ハアーといった声)が、合図の言葉として機能している。
  • 指揮がいないのではなく、指揮が「呼吸」という形で全員に分散している。
図で見る

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舞台黒御簾下手ツケ上手花道客席↑ この図は客席から舞台を見た向き
音は左右から来ます。客席から見て左——下手が黒御簾で、唄・三味線・鳴物がここから流れます。右——上手ではツケが役者の動きを打ち留めます。同じ木の音でも、柝は劇場全体の進行を司る別の役割です。

「黒御簾」をくわしく

くわしく

西洋のオーケストラを思い浮かべると、指揮者がいないことは不思議に映る。しかし歌舞伎の音楽は、そもそも指揮者を必要としない作りになっている。理由は、テンポが固定されていないからである。

歌舞伎の音楽は、舞台上の役者の呼吸に合わせて伸縮する。役者が一拍長く見得(みえ)を保てば、音楽もそこに合わせて伸びる。台詞が早く運べば、それに追随する。つまり音楽の側が、常に舞台の状況に応答している。外からテンポを与える指揮者を置くと、この応答が働かなくなってしまう。

では誰も導かないのかというと、そうではない。長唄であれば、立唄(たてうた)と立三味線(たてじゃみせん)——それぞれの主導的な奏者——が互いの息で全体を引っ張る。義太夫(ぎだゆう)であれば、太夫と三味線が一対となって導く。合図には、演奏者が発する掛け声(ヤアー、ハアーといった声)が使われ、これが実質的な指示の言葉として機能している。つまり、指揮者がいないのではなく、指揮が「呼吸」という形で全員に分散していると言うほうが正確である。全員が舞台を見ており、全員が互いを聴いている。この方式でなければ、役者に合わせて音楽が伸縮することはできない。

この回答に出てきた言葉

立唄・立三味線
長唄(ながうた)における、唄方と三味線(しゃみせん)方それぞれの主導的な奏者。
太夫
義太夫(ぎだゆう)節を語る奏者。三味線(しゃみせん)と一対で場面を運ぶ。
SOURCES

出典・記載の方針

本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)