Q&A

演技・舞台表現

「成田屋」などの屋号を掛ける大向うの声は、舞台上の役者にも聞こえていますか?

ANSWER答え

届いているとされます。良い掛け声は芝居の間に組み込まれ、役者の気を高める「共演」として歌舞伎の一部になっています。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 届いている。それも、芝居の間に組み込まれるほど確かに届いている。
  • 掛け声は、見得(みえ)の極まりや花道(はなみち)の出といった芝居の呼吸の急所に掛かる。
  • 掛かるべき所に良い声が掛かれば、芝居が締まるとされる。
  • 屋号(やごう)を呼ぶ文化は、役者と観客が三百年かけて育てた劇場の対話である。
図で見る

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舞台一階席上階席大向う「成田屋!」
大向う(おおむこう)——舞台から最も遠い上階後方の席。そこから飛ぶ屋号の掛け声が、間合いを計って役者の芝居を押し上げます。図は一般的な劇場の配置を簡略化したものです。

「大向う」をくわしく

くわしく

まず前提として、大向う(おおむこう)が呼んでいるのは俳優の個人名ではなく屋号(やごう)(やごう)である。市川宗家(いちかわそうけ)なら「成田屋(なりたや)」、尾上菊五郎家なら「音羽屋」というように、家に付いた呼び名が使われる。個人ではなく家を呼ぶ——ここに、歌舞伎という芸能の性格がよく表れている。称えられているのは、その俳優一人の技量だけでなく、代々受け継がれてきた家の芸そのものである。

そのうえで、届いているかという質問への答えは「届いている」である。それも、単に音として聞こえているという以上の意味で届いている。掛け声は、見得(みえ)が極まる瞬間、花道(はなみち)からの出、引っ込みといった、芝居の呼吸の急所に掛かる。役者はその声を間のうちに受け取り、次の動作へ移る。つまり掛け声は、芝居の外から飛んでくる応援ではなく、芝居の内側の時間に組み込まれているのである。

だから、良い掛け声は芝居を締める。掛かるべき一点に、短く、良い声が掛かれば、その瞬間の密度が上がる。逆に、間の外れた声は芝居を緩ませてしまう。この技術が難しく、大向うの会が稽古を積んできた理由もそこにある。役者と観客が三百年かけて育ててきた、劇場の対話の形——「成田屋!」の一声は、その積み重ねの上に響いている。

この回答に出てきた言葉

屋号
俳優の家に付いた呼び名。市川宗家(いちかわそうけ)成田屋(なりたや)、尾上菊五郎家は音羽屋。
大向う
劇場のいちばん後方の席。またそこから掛かる掛け声のこと。
SOURCES

出典・記載の方針

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)