Q&A

演技・舞台表現

歌舞伎独特の「見得」には、どのような意味や役割がありますか?

ANSWER答え

感情や力が頂点に達した瞬間を静止で刻む、歌舞伎最大の様式です。動きを止めることで時間を切り取り、観客の目に焼き付けます。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 芝居の高潮で役者が動きを止め、首を回して睨み(にらみ)を極める所作。
  • 映画のクローズアップに喩えられる。流れる時間を一点で静止させる装置である。
  • ツケのバッタリが打ち込まれ、大向う(おおむこう)から声が飛ぶ。劇場の全要素がこの一瞬に集まる。
  • 市川家の荒事(あらごと)は、この見得(みえ)の美学を最も大きく育てた芸系とされる。
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ツケ板(舞台上手の床に置く)バタバタ走る・立廻りバッタリ見得が決まるトントン小さな動き
ツケ——舞台の上手に置いた板を、二挺の木で打って鳴らす音。走る場面、見得が決まる瞬間、細かな仕草。音が動きに輪郭を与えます。呼び名は劇場や場面によって異なります。

「ツケ」をくわしく

くわしく

見得(みえ)(みえ)は、歌舞伎を歌舞伎たらしめている最大の様式である。芝居が高潮に達した瞬間、役者は動きを止める。首をぐっと回し、片目を寄せて睨み(にらみ)を極め、全身を彫像のように固める。数秒のあいだ、時間が止まったようになる。初めて観る人でも「今が何か特別な瞬間だ」とわかる——それくらい明確に設計されている。

なぜ止まるのか。よく用いられる説明は、映画のクローズアップとの類比である。カメラが顔に寄って観客の注意を集中させるように、見得は流れる時間を一点で静止させ、その人物の力と心を最大出力で観客に手渡す。動き続ける舞台のなかに、一枚の絵が挿し込まれるようなものだと言ってもよい。実際、役者絵として繰り返し描かれてきたのも、この見得の姿である。

この一瞬には、劇場のあらゆる要素が集まるように設計されている。ツケのバッタリが二打、強く打ち込まれる。下座の音楽が極まる。大向う(おおむこう)から屋号(やごう)を呼ぶ声が飛ぶ。客席から拍手が起きる。役者一人の所作ではなく、舞台と客席が総出で作る瞬間なのである。そして、この見得の美学を最も大きく育てたのが、市川家の荒事(あらごと)だとされる。人間を超えた力を表す様式であるがゆえに、見得もまた極端に大きく、極端に長い。『暫』の主人公が舞台中央で見得を極める姿は、その頂点にあたる。

この回答に出てきた言葉

睨み
目を寄せて強く見据える所作。市川家では、災いを祓う力があるとされてきた。
彫像
見得(みえ)の静止をたとえる言葉。ただし完全な静止ではなく、内側に力が張っている。
SOURCES

出典・記載の方針

本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)