Q&A

演技・舞台表現

舞台上の歩き方や仕草には、どのような意味がありますか?

ANSWER答え

歩みそのものが役を語ります。すり足は身分と品格を、六方(ろっぽう)は超人的な力を、女方(おんながた)の運びは性根の柔らかさを表すというように、移動が全て様式化されています。

KEY POINTS

ここだけ押さえる

  • 歌舞伎の身体は、日常の動きをそのまま持ち込まない。移動もすべて様式化されている。
  • 腰を据えたすり足は能から続く様式の土台。役の身分や心の張りが歩幅と速さに翻訳される。
  • 荒事(あらごと)六方(ろっぽう)のように、歩みそのものが見せ場になることもある。
  • 扇の返し一つ、袖の扱い一つが感情の語彙になっている。
図で見る

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『勧進帳』の武蔵坊弁慶と富樫左衛門。弁慶が金剛杖を手に足を踏み出し、大きく身体を開いた構えを見せる
歌川国貞『歌舞伎十八番之内十八 勧進帳 五代目市川海老蔵の富樫左衛門・八代目市川團十郎の武蔵坊弁慶』嘉永5年(1852)。弁慶が花道を去る飛六方は六方の代表例歌川国貞『歌舞伎十八番之内十八 勧進帳』ボストン美術館(パブリックドメイン, Wikimedia Commons)

「六方」をくわしく

舞台揚幕へ
六方(ろっぽう)——花道を、手足を大きく振り上げながら跳ぶように去っていく引っ込み。『勧進帳』の弁慶が見せる「飛び六方」がよく知られています。図は足取りを簡略化したものです。

「六方」をくわしく

くわしく

歌舞伎を観て最初に気づくことの一つが、誰も普通に歩いていない、ということである。これは演技が過剰なのではなく、歩みそのものが役を語る手段になっているからである。歌舞伎の身体は、日常の動きをそのまま舞台に持ち込まない。すべての移動が、様式として設計されている。

土台にあるのが、すり足である。腰を落として据え、足の裏を床から離さずに運ぶこの歩き方は、能から受け継がれた様式の基礎で、上体が上下に揺れない。この安定した土台の上に、役ごとの違いが乗る。身分の高い人物はゆったりと大きく、慌てている者は小刻みに、老人は膝を緩めて——歩幅と速さと重心の位置が、そのまま人物の情報になる。心の張りも歩みに出る。決意した人物の歩みと、迷っている人物の歩みは、明らかに違う。

歩みが見せ場そのものになることもある。荒事(あらごと)六方(ろっぽう)がそれで、花道(はなみち)を大きく踏み鳴らしながら引っ込むこの動きは、それ自体が独立した芸として観られる。女方の運びもまた別の体系で、内股気味に足を運び、身体の芯を少し内側に収めることで、柔らかさと慎ましさを形にする。仕草も同じ原理で、扇の返し一つ、袖の扱い一つが感情の語彙になっている。「動きを読む」ことができるようになると、歌舞伎の面白さは何倍にもなる。

この回答に出てきた言葉

すり足
足の裏を床から離さずに運ぶ歩き方。上体が揺れず、様式の土台になる。
重心
身体の重さが集まる位置。どこに置くかで人物の印象が大きく変わる。
SOURCES

出典・記載の方針

本項は、歌舞伎について広く共有されている基礎的な知識に基づく編集部の回答です。慣行として伝えられる事項は「とされる」と記し、断定を避けています。

執筆
D-13編集部
公開日
2026年8月25日(火)
最終更新日
2026年8月25日(火)